私は天使なんかじゃない






Das Experiment









  囚人と看守。
  与えられた役目、実験。

  スタンフォード監獄実験。





  グレイディッチ。地下。
  Dr.レスコの研究室前の通路。
  「へぇっ! へぇっ! へぇっ! 伝説の運び屋っていうだけある、なかなかやるっ!」
  「……テンション無駄に高い。うるせぇ」

  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!
  キィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンっ!

  刀を振るうトロイ、2振りの剣を振るうデス。
  伝説の運び屋と死神の戦い。
  双方互角。
  一歩も引かない戦いがここに展開されている。
  だがどちらまだ全力は出していない。
  卓越した剣技の応酬は2人にとって未だ前哨戦に過ぎない。
  あくまで肩慣らし。
  「ランサーも不甲斐ないけど、これは納得だ。あいつじゃ勝てないね」
  「そうかい?」
  「ああ。僕にしか勝てないねっ! さあ、死神の猛威を知れっ!」
  「薄っぺらいキャラだな、お前」
  そして戦いは次第に激化して行き……。





  「おい、やめろっ!」
  何度目の叫びだろうか。
  俺は昔馴染みに声を荒げて自制を求めた。
  人間?
  人間ではない。
  だが、ボルトにもっとも古くからいて、ボルトの子供たちから最も人気のあるロボットが相手だ。俺としても戦いたくはねぇ。誕生会にはいつだって来てた。昔馴染みの、仲間だ。
  そいつの名はMr.アンディ。
  ボルト101に配備されている、Mr.ハンディというタイプのタコのような形状のお手伝いロボット。
  「ふふふ〜ん」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

  こちらに向けて火炎放射器を容赦なく放ってくる。
  幸い範囲はそう広くない。
  だが、問題はこの場所だな。
  狭い通路の戦いだ。
  こういう場所では火炎放射器はある意味で最強の武器だ。何とか距離を保って逃げてはいるが空気が熱い。9oで貫通できるのかは知らん、ロボットの装甲を貫通できるだけの
  威力は基本9mにはないからな。プロテクトロンはともかくこのタイプは貫通するかどうか。もちろん、そもそも撃つ気はないから銃を抜いてすらいない。
  中華製アサルトライフルなら撃ち抜けるかもな。
  だが撃たない。
  仲間。
  そう、こいつとは仲間だ。
  「アンディ、やめろってっ!」
  「やめるんですか〜?」
  「そうだっ!」
  「何で?」
  「何でって……ダチだろ、俺たち」
  ここでMr.アンディは停止する。
  宙に浮いたまま呟いている。
  「ダチ、ダチ、ダチ」
  「……」
  こいつ壊れているのか?
  それともアランたちに改造されてこんな風になっているのか?
  あり得る話だ。
  「アンディ、俺らダチだろ」
  「……」
  「お前は気の良い奴だったじゃねぇか。いつだって俺たちの遊び相手で、誕生会にだってお前毎回来てただろ。ははは、ロールケーキ切るときに何回か駄目にしてたけどな」
  「……」
  「アンディ」
  「ブッチ、すいません、どうかしてました」
  「いいって」
  「ブッチは優しいですね」
  「そ、そうか?」
  「そんなあなたにカミングアウト。毎回だとさすがにわざとだとばれるので数年に一度という割合にしてましたけど、ロールケーキを切るのを失敗したのは全てわざとです」
  「なっ!」
  何だとーっ!
  聞き捨てならねぇぞ、それはーっ!
  「ちょっ! お前、パルマーおばさんのロールケーキ俺の大好物だったんだぞっ!」
  「わ・ざ・と・で・す」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

  「熱っ!」
  ちりちりっと髪が少し焼ける。
  やべぇっ!
  少し反応が遅れた。
  あぶねぇ。
  「おやおや〜、避けましたか〜」
  「アンディっ!」
  こいつガチか。
  この攻撃全般やアランとの行動は全部ガチのやつか。
  そこでふと思う。
  ……。
  ……こいつ、思想持ちでここまでやってるのか?
  ボルト至上主義を持ってる?
  何でだ?
  「アンディ」
  「何ですか〜?」
  じりじりと俺は下がりながら聞く。アンディもじりじりとこちらに近付いてくる。
  一定の距離を保ちながら俺たちは動く。
  ガチだ。
  ガチのやつだ。
  ワリーといい、こいつといい、何だって俺がダチだと思ってる奴が敵対するんだよ。
  きついわー。
  「お前、何だってこんなことするんだ?」
  「ぶっちゃけな話?」
  「ああ」
  「楽しいからですよ。ベアトリクスの足を切ったのは最高でした。医者最高。患者が死ぬまではね。……楽しかったなぁ〜……」
  「……」
  「むしろ患者が死んだ方が楽しかったんですけどね〜。もちろんわざとです。つま先ぶつけたぐらいで足切る、っていうのがとんでも理論なのは分かってましたよ」
  「……お前、壊れてるのか?」
  「壊れているのというかこれが本性というか。そうそうブッチ、これって知ってます?」
  「何を?」
  「本当の監督官って私なんですよ」
  「はあ?」
  こいつ何言ってやがるんだ?





  グレイディッチ。地下。
  プラットフォーム。
  「余計な手間を食った」
  呟きながらレディ・スコルピオンはナップサックに試作型レーザーライフルのメタルブラスターを入れようとする。
  これは自身の身元がばれる、厄介な代物。
  レディ・スコルピオンは素性がばれることを極度に嫌っている。
  偽名を使っているのもその為だし、キャピタルに来た当初顔を隠していたのもその為だ。
  ただ、最近ではキャピタルでは顔が売れていないことも分かり顔は晒している。それでも極力素性に繋がるものは自分の胸に秘めている。
  「あんたか、そっちもやり合ってたのか?」
  「……っ!」
  背後から男の声。
  咄嗟にしまおうとしていたメタルブラスターをその人物に向けた。
  「おいおい、物騒だな」
  「……」
  「何だ、どうした?」
  「……」
  メタルブラスターを見られた。
  仲間とはいえ見られた。
  「……まあ、いいか」
  「はあ?」
  「何でもない、軍曹」
  「そうか?」
  現れたのはベンジャミン・モントゴメリー軍曹。
  仲間。
  どのみちこの男性に自分の素性を詮索される恐れがないことは分かっているし、実際200年冷宇宙船で凍保存されていたベンジーにはその類の発想がない。200年地上で行われていた
  歴史を全く知らないのでレディ・スコルピオンが過去に西海岸で何をしていたのかを思い描く知識すらない。
  ただ、今まで見たことのない武器に怪訝そうな顔をした。
  「レーザーライフルか、見たことないタイプだな」
  200年前のアンカレッジの戦いの時点で実用化され、全軍に配備されていたので彼にとって珍しいわけではない。
  一瞬しまおうかとも考えたレディ・スコルピオンだがこの戦いには必要だと判断して使うことにした。
  仲間に見られることは別に構わないし、敵であるストレンジャーは見たところですぐに死ぬ。
  問題あるまい。
  「そちらの敵は倒したの?」
  「中国野郎か? マシー……何だっけ?」
  「マシーナリー」
  「それそれ。そいつは万里の長城の向こうまで吹っ飛ばしたぜ」
  「万里……何それ?」
  「中国にあるとかいう馬鹿長い城壁らしい。ところでそっちもストレンジャーとかいう奴と戦ったのか? ボスとロボットマンがいないが……」
  「先に行かせた。あたしはガンナーを倒した」
  「そうかい。じゃあ、俺たちも先に急ごうぜ」
  「ええ」





  グレイディッチ。地下。
  ボルト至上主義者たちが与えられている区画。その一室。
  現在ここはボルト側の作戦室となっている。
  とはいえ人数は次第に減りつつあった。
  地下に侵入してきたブッチたちを迎撃する為にセキュリティ部隊を送り込んだものの全員帰ってこない。アランはブッチたちに返り討ちにあったと考えているが、実際はブッチにだけ
  ではなく地上だけでなく地下にも蔓延って徘徊しているファイアーアントの餌食になっている者も多数いた。
  ジェリコは囁く。
  「どうする?」
  撤退するかと囁く。
  ジェリコとクローバーはあくまでミスティに対する復讐の為に協力しているだけであり、ボルト至上主義者たちがキャピタルを荒らしてミスティに対してのダメージにしようとしているだけ。
  ここで全面対決して全滅する趣味は最初からない。
  あくまで煽っているだけ。
  全面対決は、ミスティが帰ってからだ。
  そういう意味では水絡みにしてもストレンジャーを復讐の一環に引き摺りこんだのもボルト至上主義者たちに手を貸しているのも、それ以上でも以下でもない。
  ブッチたちの勢いは予想以上だった。
  地上に出張ってきたヴァンスたちの部隊もピットの部隊も活発化している。
  これ以上の面倒は望んでいなかった。
  それはアランも同じだった。
  ミスティとブッチの抹殺は、ボルトを荒らしたという意味合いで殺したいだけで、それはあくまでボルト至上主義者たちの賛同を得る為の手段でしかない。長男のオフィサー・マックの復讐も
  あるにはあるが地上での戦いはボルトの監督官になる為の前哨戦に過ぎない。水不足になる可能性があるボルトに水を持って帰る、それが主目的。
  ジェリコ同様に全面対決するつもりは最初からなかった。
  当然部下たちにはそれは言わないが。
  ボルトに持ち帰る大量の水はジェリコが確保している。
  これ以上この戦いにこだわる必要はなかった。
  出撃させている部下やMr.アンディが戻ってこないが別に待つつもりはアランにはない。撤退する頃合いだ。結局ミスティもブッチも殺せなかったが、ボルト101の中で一番外の世界に精
  通しているという肩書は手に入ったしボルト存続に必要となる水の備蓄も手に入った、戦いにとことん没頭する必要性はどこにもない。
  アランはジェリコに頷いた。
  「ジェリコ、頼む」
  「了解した。俺とクローバーであんたらをボルト101まで送り届ける。水もな」
  「全員撤退の準備をしろ。我々はボルト101に凱旋する。水さえあれば日和見のアマタを引きずり下ろし俺が監督官になれるっ! 完璧なる、ボルトの始まりとなるっ!」

  ボルト至上主義者、撤退。





  「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「……っ!」
  何度目になるのか。
  メカニストはバンシーの絶叫に吹き飛ばされた。
  勝つ為に、戦略的に撤退しつつ戦うのは心得てはいたが正義の味方として逃げるのだけはプライドが許さない。故にメカニストは戦い続けていた。
  だが決定打がまるでない。
  「くっ」
  立ち上がりながら勝つ為の方策を考えていた。
  レーザーピストルがまるで通用しない。
  バンシーの正体がアンドロイドもしくはサイボーグだと判明したものの、弱点はパルス・グレネードだと分かったもののまるで打つ手なしだった。レーザーライフルの出力では
  皮膚すら焼けないしハルス・グレネードは手元にない。完全に打つ手がない。
  もっとも有利なこともある。
  このコスチュームのお蔭で吹き飛ばされるたびに壁に叩きつけられてもダメージが軽減している。
  それにそもそも声にそこまでの破壊力はない。
  「しぶといわね、誰だか知らないけど」
  「正義の味方メカニストだっ!」
  「ああそうですかああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!」
  「……っ!」
  吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた。
  「ぐはぁっ!」
  ダメージは軽減される。
  そもそもの威力もそこまで高くはない。だが完全に無効でもない、次第に体力は奪われていく。

  「バンシーさんっ!」

  新手が来た。
  溶接マスクをした、火炎放射器を担いだ男。
  コードネームはトーチャー。
  ストレンジャー本隊の1人で、実力者たちからは軽視されている人物。
  「トーチャー? ここで何を?」
  「バンシーさんのお手伝いをと思いまして」
  「ふぅん」
  「それでこの野郎は俺が消し炭にしてもよろしいですか?」
  「ケチな戦果稼ぎってわけね。まあいいわ。私は飽きた。あとはお好きになさい」
  「へへへ。ありがとうございます」
  メカニストは咄嗟な判断した。
  自分のコスチュームの防御力、火炎放射器のタンク、通路という閉鎖空間。手にしているレーザーピストルを撃つ、トーチャー目掛けて。普通のレーザーピストルではない、強化版だ。
  レーザーはトーチャーを貫通しタンクに直撃。

  
ドカァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンっ!

  瞬間、大爆発。
  近くにいたバンシーはまともにそれを受ける。
  当然避けようもない。
  何しろ通路での戦いだ。メカニストもそれに巻き込まれ、爆発が収まった時にはコスチュームの大半がぼろぼろになったものの、何とか生きていた。
  レーザーピストルがない。
  吹き飛んたが落としたかしたのだろうか。
  火炎放射器のタンクは爆弾のようなものだ、メカニストはそれを利用した。
  「勝った、か」
  「面白いことをしてくれたわ」
  「……っ!」
  そこに、いた。
  銀色のボディをした女性型の造形の存在が。
  人工皮膚はすべて焼失している。
  バンシーの真の姿。
  「よくも、まあ、ここまでやってくれたわ。ストレンジャー相手によくここまで足掻いた、感心するわ、東海岸の雑魚どもめ。でもここまでよ。死んでもらうわ。ムカつく、ムカつくわっ!」

  VSバンシー&トーチャー戦。
  メカニスト、トーチャーに勝利。しかしバンシーに対しては劣勢。
  




  もはや迷いはなかった。
  完全にアンディはこちらを殺しに掛かっているのが分かったからだ。
  壊れているのか仕様なのか。
  もう俺には分からねぇ。
  「食らいやがれっ!」
  「効きませんねぇ〜」
  一丁分全弾発射するものの9o弾は全て弾かれる。堅い。まあ、分かってたことだ。中華製アサルトライフルを構える。こいつは耐えられんだろう。というか耐えられない。
  アンディは俺に対して火炎放射しようとする。
  その前に落とすっ!

  バリバリバリ。

  「効きゃしませんって〜」
  「嘘だろ」
  火炎放射を後ろに退くことでかわしながら俺は呟いた。
  ありえない。
  弾痕は残っているがそれだけだ。
  いくらなんでも堅過ぎだろ。
  「私はですね〜、特別製なんですよ〜」
  「ちっ」
  監督官発言はデタラメだろうが、特別なのは間違いないようだ。
  だがこいつは何だ?
  何なんだ?
  「アンディ、一体お前は何なんだ?」
  「これだから餓鬼は嫌なんですよ言ったでしょ、私は、監督官ですよ、ボルト101のね」
  「……」
  「おやデタラメだと思ってます?」
  「突拍子なさ過ぎだろ」
  「Das Experimentってやつです。スタンフォード監獄実験。ボルト101の意味は純血ではありません、真の意味、そう、それは適応性ですよ」
  「はあ?」
  こいつ何言ってやがる?
  アサルトライフルを床に放り捨てて俺は空になった方の9oピストルを引き抜いて特別な弾倉を装填する。
  アンディは続ける。
  「やれやれ無知は困りものですね。スタンフォード監獄実験、有志を募って囚人と看守の役割を与えたんです。最初は和気あいあいのムードだったその実験、しかし看守は次第に看守らし
  くなり囚人を虐待、囚人役は囚人としてのルールを自分の中で定義してしまうんです。その実験の根幹は適応性。人は与えられたと知りつつもそれに適応してしまう」
  「それがボルトと何の関係があるんだ?」
  「ボルト101に対してボルトテック社の与えた役目、それがその実験だったんですよ。何世代にも渡るね〜」
  「看守と囚人ってボルトにはいないだろうが」
  「馬鹿ですね〜無知ですね〜。支配する者、される者です、拡大解釈しての実験ですよ。監督官は監督官としての役割を与えられた。それぞれはその役割を続けていた、何世代にも渡ってね」
  「……」
  「ボルト101は完成された監獄となった。誰も外に出ようとしない、規律に従う、監督官は絶対だ、完全に独立した世界観を作り上げた。役割を演じるすべての者たちがね。自分たちが支配され、
  操作され、実験という場にいることも知らずにね。そして導き出された答え。人は順応する、適応する、つまりは家畜化される。家畜は自分の存在意義を疑わない、そういうことです」
  「だが」
  「だが?」
  「トンネルスネークはボルトテックには従がってねぇぜ」
  「分かってないですね〜。従がうということに意味はないんです。要は監獄内の役割を演じることに意味があるんですよ」
  「役割ったって……」
  「ボルトの実験動物に選ばれましたあなたの役割は監督官です等しく実験動物ですけどねー……ってわざわざ宣言するわけじゃないでしょ〜? ボルトテックが導き出した計算上には既に
  あなたのような存在はいたんですよ。いずれそのような役割を持った奴が現れるってね。それがブッチあなたです」
  「……」
  「アラン・マックがアマタを追い落として監督官になりたがっているのも再計算の結果既に分かってました、そう、全ては真の監督官である私の計算の上で成り立っているんですよ」
  「ボルトテックがないっていうのにご苦労なことだぜ」
  「それはそれはご丁寧に〜」
  くそ。
  こいつムカつくぜ。
  つまりこいつは俺たちを管理して、監視してたってわけだ。
  本当の監督官として。
  ……。
  ……あれ?
  こいつ今何って言った?
  再計算だと?
  「ちょっと待て、今の流れは当初の予定にはなかったってことか? お前再計算って……」
  「死ね〜」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

  何でだよっ!
  くそ。
  熱いぜ。
  「アンディっ!」
  「ジェームスを前監督官が受け入れるのも想定はしていました、あの時点でボルト101はかなり人手不足&有力な人材不足でしたからねぇ。もちろんジェームスが来る、というのは
  知りませんでしたよ、あくまで有能な人物が逃げ込んでくるっていうのは想定内でした。有能でなければボルト101側も亡命は許さないでしょうし」
  「それで?」
  「その有能な人物はボルトに目的が持って入って来たんですね、それを知って再計算しました。そいつは出て行くと。そして出て行った。それはいい。それはいいんですけど娘が問題でした」
  「優等生が? 何で?」
  「その娘は再びボルトに戻ってきた。反乱騒ぎの時です。アマタは引き戻すと思ってました、そして当たった、だけど……」
  「だけど?」
  「死ね〜」
  「おいーっ!」

  ごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!

  何なんだ?
  何なんだよ、くそっ!
  長く存在し続けて人工知能に完全に自我が目覚めてるのか、八つ当たりで攻撃してきている気がする。
  考え過ぎ?
  いやぁ。
  これは完全に八つ当たりだろう。
  「お前優等生は計算違いだったんだろ?」
  「うるさいっ!」
  図星だ。
  「あの女、完全に計算を無視した存在になった。前監督官が説得される可能性は限りなく0%だった、あの時ボルトが崩壊する確率は限りなく100%だった、もちろん完全に0%じゃない限り覆る
  ことがあるのは承知していますがね、あの女は法則を無視してる。エンクレイブを撃退? スーパーミュータントを殲滅? 理解不能理解不能理解不能」
  「はははっ! つまりだ、ボルトテックやお前の計算は当てにならないってことだ」
  「黙れっ!」
  外に出てからボルトテック社はエンクレイブの下部組織だって聞いた覚えがある。とはいえこいつはエンクレイブを重視していないようだ。
  あくまでボルトテックから監督官の地位を与えられたからボルトテックびいきってことか?
  まあいい。
  実験実験、役割役割とか連呼しているけどこいつ自身役割を与えられて待っているに過ぎない。
  終わらせてやるよ。
  9oピストルを構える。
  「理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解理解不能理解不能理解不能不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能理解不能ぉーっ!」
  「終わらせてやるよ、アンディっ!」
  装填されている弾丸は特別製。
  9+P弾。
  西海岸の、貫通力の高い弾丸。
  こいつなら。
  こいつならぁーっ!

  ばぁん。

  くっ。すげぇ反動だっ!
  片手撃ちだと反動で照準がぶれる。俺は両手で持って、構え、撃つ。その弾丸はアンディを貫通。5発貫通した時点でアンディは落下、床に転がった。
  煙を吹き、バチバチと火花が散っている。
  もう長くないだろ。
  「……ブッ……チ……」
  「何だ」
  「……何故、絶望……しないのですか〜……」
  「はあ?」
  「……ボルトの人間……は、人間ではありませんけど……わた、し、も含めて、全て管理されていました……与えられていたレールを歩いていたに過ぎないのに何故、絶望しないのですか……」
  「与えられていたレールだろうが何だろうが歩いているのは俺様の足だからな。つまり、歩んだのは俺自身だ。ボルトテックの思惑なんざ知ったことか」
  「……理解、不能……」
  「あばよ、ダチ公」
  俺は銃口を向け、そして……。